敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 その晩は、三日に一度と定例になっていた、エルフナルドと寝室で過ごす日だった。
 ユリアはいつものように椅子に腰掛け、本を読みながらエルフナルドを待っていた。
 いつもより少し遅い時間に現れたエルフナルドは、寝室に入るなり、ユリアの向かいにある長椅子に腰を下ろした。
 
「ご公務、お疲れ様でございます。……何かございましたか?」

 少し驚きながら問いかけると、エルフナルドはちらりとユリアへ視線を向けた。

「少しくらい外に出たらどうだ。お前の侍女が心配している」

 ぶっきらぼうな口調だった。
 だが、目の端や眉のわずかな動きに、ユリアを案じる気持ちが表れていた。

「侍女や薬師が怪我をしたのは、お前のせいじゃないだろう。いつまで部屋に籠もるつもりだ。……辛気臭いぞ」
「……私が外に出ると、護衛の方々も同行しなければなりません。皆様のお仕事を増やすよりは、その方が良いかと……」

 俯いたまま答えたユリアの胸には、別の思いが渦巻いていた。
 自分の周囲の者ばかりが傷つけられているという疑念。
 それが“偶然ではないのではないか”という不安。
 だが、犯人が自分の力を確かめているのではないかなどと、口にできるはずもなかった。

「そんなことを気にするな。お前の侍女のためにも、外に出てやれ。……今日、あいつが俺のところへ来た」
「アリシアが……陛下のところへ?」

 思わず、ユリアは顔を上げた。

「このままだと、お前の侍女まで一緒に籠もることになるぞ」

 半ば脅しのような言葉だったが、仕草の端々、肩のわずかな動き、言葉の間の間合い、から、ユリアを案ずる気持ちが静かに伝わる。
 ユリアはしばらく考え込んだ後、ゆっくと口を開いた。

「……わかりました。陛下にまでご心配をおかけし、申し訳ありませんでした。ご令嬢の方々が集まるお茶会に招待されておりますので、そちらに参加いたします」

 深く頭を下げる。

「ああ。そうしろ」

 エルフナルドはそれだけ言うと、長椅子を立ち、ベッドに入った。

 ユリアは椅子に座ったまま、静かに思考を巡らせていた。

 ――このままではいけないわよね……。
 アリシアにも、陛下にも、これ以上心配をかけるわけにはいかない。
 お茶会に参加して、少し顔を出して帰るだけ……それなら、きっと。

 目を閉じて考え込むユリアの横顔を、エルフナルドはベッドに横になったまま、しばらく黙って見つめていた。
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