敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「でも……国の情勢が変わるかもしれないって聞いて……私、この国のことなんて、何も考えていなかった。ただ、自分のことばかりで……」
「ユリア様……」

 小さく肩を震わせるユリアに、アリシアは近付き、そっと背中に手を添えた。

「私が望んでいる日常は……この国にとって、何の発展にもならないのよ。私が王妃でいる限り、この国のお荷物なだけ……。ミラベル様の言っていることは、正しいの」
「ユリア様……お荷物だなんて、そんなこと仰らないでください」

 アリシアは背中をさすりながら、必死に言葉を紡ぐ。

「私は、ユリア様がこの国に来てくださって、本当に良かったと思っています。ユリア様の侍女になれて、毎日楽しいです。ユリア様は、私に文字を教えてくださったじゃないですか。ユリア様のおかげで今は、文字も書けるし本も読めます。ユリア様が育てていらっしゃる薬草だって、人々のお役に立っているじゃないですか。これのどこがお荷物だって言うんですか?」
「でも……そんなこと、王妃でなくてもできるわ」
「今は陛下が世継ぎを作らないと仰っていても、これから先は分からないじゃないですか。もしかしたら、いずれユリア様とのお子を――」

 アリシアの言葉に、ユリアは一瞬、息を詰めた。
 
「それは無理よ!!」

 突然、ユリアが顔を上げ、叫んだ。

「私に、陛下のお子を産むなんて……私は、子供なんて絶対に産んではいけないの!!」
「ど、どうしてですか……?」

 アリシアは突然の剣幕に驚きつつ、戸惑いながら問い返した。

「……ごめんなさい。取り乱したわ。何でもないの……。もう、この話はおしまいにしましょう」

 アリシアは何かを言いかけたが、結局それ以上は踏み込まなかった。
 ユリアは、これほど心配してくれるアリシアに、何一つ話せないことが胸に痛んだ。
 
 いっそ、すべてを打ち明けてしまえたら――。
 
 小さく息を吐き、ユリアは目を閉じた。

 ――アリシア、ごめんね……。
 何も話せないの。
 私の……秘密は、一生、誰にも話してはいけない。
 あの日、お兄様と約束したのだから……。

 閉じた瞼の隙間から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
 そして、兄と交わした、あの日の約束を思い出していた。
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