敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「お前の母上は、ティーン国の者が捕らえ尽くされた後も、ただひとり生き延びていた。仲間たちが、命を懸けて隠していたからだ。……だが、父上に見つかり、幽閉された」

 ヘレンの声が、かすかに震えた。

「お前の母上は……際限なく力を使えた。それを知った父上は考えた。この力を持つ者に子を産ませ続ければ、力は失われないのではないか、と」

 ユリアは、目を閉じたまま、声を殺して泣いた。

「だが……母上は、お前を産んですぐに亡くなられた。そして父上の計画は崩れた。それでも父上は、お前に力があることを信じ……三歳になるまで、一切力を使わせず、大切に育てていらっしゃった」

 ヘレンは、ユリアの手をそっと握った。

「だが……あの日だ。父上が間者に襲われ、瀕死の重傷を負った時――その場にいたお前が、無意識に力を使った」

 ユリアの胸が、ぎゅっと締め付けられた。

「父上は命を救われたにも関わらず……力を解放してしまったことに、酷く落胆していた。その時から、お前の力は不完全になった。それ以降もお前の力を使わないようにしていた父上だったが……戦況が悪化すると、父上は自暴自棄になり、お前の力を使うようになったのだ」

 ヘレンは深く息を吐き、もう一度ユリアの手を握り直した。

「だが父上は気付いた。不完全な力でありながら……お前の力は、なかなか尽きない。母上と同じなのではないかと……」

 ユリアは、震えながらヘレンを見上げた。

「そして父上は考え始めた。お前に王族の男との子を産ませれば、力は宿るだろう、と。だから……お前の初経が来るのを待っている」

 ユリアの呼吸が止まった。
 言葉を絞り出すように、ヘレンは続けた。

「……ティーン国の生き残りは、もうお前しかいない。だから父上は――自分がお前との子を作ろうとしているのだ」
 
 その瞬間、ユリアの足から力が抜け、床にしゃがみ込んだ。
 胸が押し潰されるようで、声を上げて泣いた。
 自分が何のために生かされてきたのかを、理解してしまったからだった。
 
 ――それでも私は、父上に認めてもらおうと生きてきたのに。
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