敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 ユリアはしばらく俯いていたが、やがてヘレンの手を強く握り締め、深く頷いた。
 ヘレンもまた、その手を壊れそうなほど強く握り返した。
 
 それからユリアは、ヘレンとの計画通り、ほんの少しずつ髪を黒く染めていった。
 シルクベイン王は、ユリアの髪色の変化に気付くと酷く取り乱し、以前にも増して、ユリアに力を使わせることを渋るようになった。
 しかし、隣国が力をつけ、戦が長引くにつれ、王は次第に追い詰められていく。
 そして結局、ユリアは再び戦場へと送られた。

 約三年の月日を経て。
 ユリアは、完全に力を失うことに成功した。
 この計画がシルクベイン王に知られることはなかったが、
力を失い「価値がなくなった」と判断されたユリアは、王宮の一室に幽閉されることとなった。

 それでも、ユリアは構わなかった。
 この三年間、自分の力は戦のために使われ、多くの血が流れた。
 もし自分の力がなければ、戦場に立たずに済んだ者も少なくなかったのではないか――
 そんな考えが、何度も頭をよぎった。
 ユリアの心と身体は、すでにひどく疲弊していた。
 
 幽閉されてからの日々は静かに過ぎていった。
 誰とも言葉を交わすことはなかったが、力を使わなくていい日常と、時折訪ねてくるヘレンとの短い会話だけで、
ユリアは十分に満たされていた。

 ――それから、約一年後。
 アルジール国との戦争が始まった。
 もちろん、ヘレンも戦争に参加した。
 
 ――どうか、生きていてほしい。
 どうか、帰ってきてほしい。

  ユリアは毎日そう祈り続けた。

 その祈りだけが、幽閉された部屋の中で、ユリアを現実につなぎとめていた。
 しかし、その願いが届くことはなかった。
 それから三年後、ユリアのもとに、ヘレンの戦死と、ユーハイム国の敗戦が知らされた。
 その言葉を聞いた瞬間、ユリアの中で、何かが音を立てて崩れ落ちた。
 涙は、もう出なかった。

 ただ――
 兄と交わした、あの「約束」だけが、
 胸の奥に、重く残り続けていた。
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