敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

50 揺れる心

 目を覚ました瞬間、胸の奥に、鈍い痛みだけが残った。
 ユリアは、ゆっくりと瞬きをする。
 見慣れた天井。王宮の、自室。

 ここが“今”なのだと理解するまで、少し時間がかかった。
 目を覚ますと、部屋にいたはずのアリシアの姿はもうない。
 ふとテーブルに視線を向けると、一枚の置き手紙が目に入った。
 手に取ってみると、それはアリシアからのものだった。

『ユリア様、どうかゆっくりお休みください。もしお目覚めになられたら……ベッドでお休みくださいね』

 文字を覚えたばかりのせいか、少し不揃いで拙い文字だった。
 それを見つめながら、ユリアは胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。

 ――私は、アリシアに心配ばかりかけている……。

 アリシアは、私が何を恐れているのかを知らない。
 兄と交わしたあの約束が、今も胸の奥に重く沈んでいた。

「お前との世継ぎは作るつもりはない」と陛下がそう仰った時、胸の奥で、ほっと息をついた自分がいた。

 ――あの約束を、破らずに済む、と。

 だが同時に、その安堵は「王妃としての役目から逃げている証」でもあったのだと、ミラベルの言葉によって突きつけられた。

「……私は」

 ユリアは小さく息を吐き、膝に置いた手を握り締めた。
 
 ――この日常は、私が望んでいいものじゃない。

 そう思うたび、胸の奥が、静かに冷えていく。
 
 ――やはり、話せるはずがない……。
 
 ユリアは頭を抱えるようにして、深く俯いた。

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