敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 翌日。
 ユリアは薬事室を訪れ、火傷薬の調合を始めていた。
 昨夜は「大丈夫だ」と言われたものの、どうしても気がかりだった。
 以前クリックに見せてもらったアルジール国の火傷薬もあったが、南の国の薬草を使った方が効果が高い。
 いつか作ろうと思っていたその薬を、今こそ試すべきだと思ったのだ。
 庭園から採ってきた薬草を手に、奥の作業場へ向かおうとした。
 その時だった。

 ――……うめき声?

 隣の書庫の方から、かすかな声が聞こえた気がして、ユリアは足を止めた。
 気のせいかと思いながらも、導かれるように書庫へ足を向ける。
 中を見渡すと、奥の長椅子に横たわる人影があった。

「……陛下……?」

 そこには、苦しそうな表情で眠るエルフナルドの姿があった。
 そっと近付くと、額には大粒の汗が浮かび、呼吸も浅い。
 エルフナルドは無意識のまま、左肩を押さえるように擦っていた。

 ――……苦しそう……。
  やっぱり、昨日の火傷が……。

 ユリアの胸がざわついた。
 昨夜、触れようとした時に手首を掴まれたことが脳裏をよぎる。
 躊躇いながらも、どうしても確かめずにはいられなかった。
 ユリアはそっと襟元のボタンに手をかける。
 一つ、また一つと外し、シャツをめくった、その瞬間――
鎖骨から左肩にかけて、はっきりと残る青白い傷痕が目に入った。

「……っ」

 息を呑み、ユリアは思わず後ずさる。

 ――火傷の……痕じゃ、ない……。

 心臓が激しく打ち、喉がひくりと鳴った。

 ――この傷……。
  私が、治した痕……。

 信じられず、もう一度だけ、そっと確かめる。

 ――間違いない。

 そして、この大きさ、この位置――
 これは、あの時の――

 ユリアは耐えきれず、その場にしゃがみ込み、頭を抱えた。
 喉の奥から、声にならない息だけが零れ落ちた。
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