敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
――あの日。
傷が治っていた夜、もはや死んだと思われていた自分が、ほとんど無傷の状態で戻った時、周囲は騒然となった。
多くは安堵してくれたが、中には明らかに怯え、気味悪がる者もいた。
エルフナルド自身、あの夜の出来事を誰かに話すつもりはなかった。
だが、何も説明せずに隊へ戻ることを、リヒターは許さなかった。
結局、リヒターと、当時すでに側近だったカリルにだけ、覚えている限りの出来事を語り、青白く残った傷痕を見せた。
話を聞き終えたリヒターは、静かにこう言った。
――その傷痕は、決して人に見せるな。
戦場では、傷を知られれば、それだけで弱点になり得る。
そして、少女の存在についても、口外は厳禁だと念を押された。
その後、リヒターが少女について独自に調べていたことは察していたが、詳細がエルフナルドに伝えられることは、なかった。
傷痕こそ残ったものの、当初は痛みもなく、腕の動きにも支障はなかった。
だが、ひと月ほどが経った頃から、雨の日や寒い日に左肩が軋むように疼き始めた。
それを表に出さぬよう過ごしていたつもりだったが――。
「エルフナルド。……まさか、傷が痛んでいるのではないか」
そう問われた時、エルフナルドは隠さず答えた。
「……少し疼くだけです」
「……そうか」
その言葉きり、リヒターはそれ以上踏み込まなかった。
ただ、国外から持ち帰った薬草を王宮で育て、傷に効く薬を作ろうとしていたことを、エルフナルドは知っていた。
――だが結局、あの傷に効く薬は、見つからなかった。
***
ユリアは薬事室で、薬草を静かに煎じていた。
「……よし。これで完成だわ」
小さく息をついて呟くと、側で作業をしていたクリックが声をかけてきた。
「今回は、どのようなお薬をお作りになったのですか?」
「薬というより……温湿布のようなものです」
ユリアはそう言って、数種類の薬草を練り合わせたすり鉢をクリックに見せた。
「湿布、でございますか? 普通のものとは違うのですか?」
クリックは興味深そうに身を乗り出し、すり鉢を覗き込んだ。