敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「一般的な湿布は冷やして痛みを和らげますよね。でも、これは別の薬剤と合わせると反応して、じんわり温かくなるんです」
ユリアはそう説明しながら、ガーゼを二枚取り出した。
「最近は寒い日が続いていますし、血行が悪くなって痛むような古傷には、ただ温めるだけでなく、薬効を加えた方が楽になると思って」
ユリアから手渡された、二種類の薬剤を塗ったガーゼを、クリックは恐る恐る手の甲に乗せた。
「……あ、本当だ。温かくなってきました」
驚いたように目を見開き、クリックはユリアを見た。
「でしょう?」
ユリアは、少しだけ表情を緩めた。
「さすがですね、ユリア様。……でも、少し安心いたしました」
「安心、ですか?」
思いがけない言葉に、ユリアは不思議そうに首を傾げた。
「アリシア様や私が怪我をしてから、ユリア様、ずっと元気がないように見えましたので。……それに、私と顔を合わせるのも、どこか避けていらっしゃるようでしたし……」
クリックはそう言って、わずかに視線を落とした。
「……申し訳ありません」
ユリアは小さく息を吸い、言葉を探すように口を開いた。
「避けていた、というほどではないのですが……ただ、少し……考え込んでしまっていて……」
そこで言葉を濁し、ユリアはすり鉢に視線を落とした。
すると突然、薬事室の扉が勢いよく開かれ、ひとりの侍女が慌てた様子で駆け込んできた。
「クリック様! いらっしゃいますか?!」
クリックとユリアは同時に顔を上げ、扉の方へ視線を向けた。
「どうされましたか?」
「市場で火事が起きまして、負傷者が出ているんです! 市場の医局にいる医師の数が今日は少なく、薬師様方にも協力をお願いしているのですが、なかなか捕まらず……。クリック様は王宮にいらっしゃると聞いて、急いで参りました」
侍女は息を切らし、額の汗を拭いながら訴えた。
「火事ですか……! わかりました。すぐ参りましょう」
クリックはそう言うと立ち上がり、急いで身支度を始めた。
それを見て、ユリアも思わず立ち上がる。
「クリック様、火事でしたら、先日調合した火傷薬があります。私も一緒にお手伝いさせてください」
ユリアは棚から火傷薬の瓶を取った。
「いけません。そんな危険なことを、ユリア様にお願いするわけには――」
「人手が足りないのでしょう? そんなことを言っている場合ではありません」
ユリアはきっぱりと言い切り、クリックより先に扉へ向かった。
クリックは一瞬言葉を失ったが、やがて小さく息を吐き、ユリアの後を追った。
その背を追いかけながら、クリックは気づいていた。
――彼女の指先が、わずかに震えていることに。
扉が閉まる音が、薬事室に重く響いた。
ユリアはそう説明しながら、ガーゼを二枚取り出した。
「最近は寒い日が続いていますし、血行が悪くなって痛むような古傷には、ただ温めるだけでなく、薬効を加えた方が楽になると思って」
ユリアから手渡された、二種類の薬剤を塗ったガーゼを、クリックは恐る恐る手の甲に乗せた。
「……あ、本当だ。温かくなってきました」
驚いたように目を見開き、クリックはユリアを見た。
「でしょう?」
ユリアは、少しだけ表情を緩めた。
「さすがですね、ユリア様。……でも、少し安心いたしました」
「安心、ですか?」
思いがけない言葉に、ユリアは不思議そうに首を傾げた。
「アリシア様や私が怪我をしてから、ユリア様、ずっと元気がないように見えましたので。……それに、私と顔を合わせるのも、どこか避けていらっしゃるようでしたし……」
クリックはそう言って、わずかに視線を落とした。
「……申し訳ありません」
ユリアは小さく息を吸い、言葉を探すように口を開いた。
「避けていた、というほどではないのですが……ただ、少し……考え込んでしまっていて……」
そこで言葉を濁し、ユリアはすり鉢に視線を落とした。
すると突然、薬事室の扉が勢いよく開かれ、ひとりの侍女が慌てた様子で駆け込んできた。
「クリック様! いらっしゃいますか?!」
クリックとユリアは同時に顔を上げ、扉の方へ視線を向けた。
「どうされましたか?」
「市場で火事が起きまして、負傷者が出ているんです! 市場の医局にいる医師の数が今日は少なく、薬師様方にも協力をお願いしているのですが、なかなか捕まらず……。クリック様は王宮にいらっしゃると聞いて、急いで参りました」
侍女は息を切らし、額の汗を拭いながら訴えた。
「火事ですか……! わかりました。すぐ参りましょう」
クリックはそう言うと立ち上がり、急いで身支度を始めた。
それを見て、ユリアも思わず立ち上がる。
「クリック様、火事でしたら、先日調合した火傷薬があります。私も一緒にお手伝いさせてください」
ユリアは棚から火傷薬の瓶を取った。
「いけません。そんな危険なことを、ユリア様にお願いするわけには――」
「人手が足りないのでしょう? そんなことを言っている場合ではありません」
ユリアはきっぱりと言い切り、クリックより先に扉へ向かった。
クリックは一瞬言葉を失ったが、やがて小さく息を吐き、ユリアの後を追った。
その背を追いかけながら、クリックは気づいていた。
――彼女の指先が、わずかに震えていることに。
扉が閉まる音が、薬事室に重く響いた。