敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「あの……この方の息子さんは……」

 祈るような気持ちで問いかける。

「五歳だ。ひとり息子でな……。商いを手伝って、このブレスレットを売ってる、いい子なんだ」

 ――やっぱり……。

 ユリアはブレスレットを強く握りしめた。
 次の瞬間、ユリアは立ち上がり、燃える建物へ向かって走り出した。

「おい! お嬢ちゃん!」
「無茶だ!!」

 制止の声を背に受けながらも、ユリアは立ち止まらなかった。

 ――しかし

 炎に包まれた建物の中から、ひとりの屈強な男が姿を現した。
 その背には、小さな男の子を背負っている。

「……っ!」
「だ、大丈夫ですか?! こちらへ! すぐ手当てを!」

 ユリアは叫び、男を建物の中へ導いた。

「俺は……大したことはない。それより、この子を頼む……」

 男はそう言って、男の子をベッドに寝かせた。
 すぐに医師のひとりが駆け寄ってくる。

「ユリア様、こちらの方は私が診ます。男の子を」
「ありがとうございます!」

 ユリアは深く頭を下げた。
 クリックも駆け寄り、男の子の様子を見て息を呑んだ。

「ユリア様……ご無事で……。この子は……」
「あの建物に取り残されていたそうです……。あの方が助け出してくれて……!」

 ユリアは脈を取りながら答えた。

「早く……手当てを……。脈が、とても弱いんです……」

 その声は震えていた。

「ユリア様……この子は……おそらく……」

 クリックは言葉を濁し、眉間に深い皺を寄せた。
 男の子は意識を失い、全身は黒く焼けただれている。

「だめよ……! 絶対に助ける……!」

 ユリアは半ば叫ぶように言った。

「水を! 冷水を持ってきてください!」

 ユリアは震える手でズボンの裾をめくり、火傷の状態を確認する。
 皮膚はただれ、目を覆いたくなるほど酷い。

 ――火傷が……あまりにも酷い……。脈も、どんどん弱く……。

 ユリアは目を閉じ、大きく息を吸った。

 ――……力を使えば……この子は、きっと助かる……。
 ……まだ、間に合う……。
 
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