敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 男はユリアの腕を乱暴に引き、外へ連れ出すと馬車に押し込んだ。
 自らも腰掛けるなり、頭を抱える。

「……もうこの村は終わりだ。ジル様が倒れたら、誰が皆をまとめる」
「この村には、医者はいないのですか?」

 思わず、ユリアは問いかけた。

「いるわけがない。ここで病にかかれば、自力で治すしかない。治らなければ……死ぬだけだ」

 男は自嘲気味に鼻で笑った。

「……だから、お前の話を聞いた時、好機だと思った。あのお方に献上できれば金も手に入る。だが本当の目的は、お前の力だった」

 男は拳を強く握り締めた。

「……お願いです。私をアルジール国に帰してください」

 ユリアは、静かだが必死に言葉を重ねた。

「病を力で治すことはできません。でも、私は薬を作れます。感染症なら、適した薬があれば治る可能性があります。どうか……」
「戯言を言うな。国に帰りたいだけだろう」

 男は鋭く睨みつけた。

「嘘ではありません。私は、力だけに頼って生きてきたわけではありません。命に関わる者の傷だけを癒し、それ以外の人を救うために、薬を学びました。だから――」

 その時だった。
 馬車が、突然大きく揺れて止まった。
 
「なんだ? どうした?! なぜ止まる!」

 男は慌てて馬車の窓を開け、御者に声をかけた。
 しかし返事はなく、外は不気味なほど静まり返っていた。
 鳥の声すらない。
 男の体が小刻みに震え出した。
 
「……まずい……。あのお方が……」

「ねえ、あなた達が言っている『あのお方』って一体誰なんですか? 私をどこへ連れて行くつもりなの?」

 ユリアは男の肩を揺すったが、男はまるで聞こえていないかのように虚ろな目で前を見つめている。

 次の瞬間――
 馬車の扉が、外から乱暴に叩き開けられた。
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