敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 ユリアは痛みに耐えながら、真っ直ぐ父を見返した。

「……本当に、分からないのですか……?」
 
 かすれた声で、しかしはっきりと言う。

「私の力は……戦争の道具ではありません。お父様は、この力を……国の道具のように扱ってきました。私は、それが……許せなかったのです」
「許せない、だと?」

 シルクベイン王の怒りが爆発する。

「お前はユーハイム国の姫だ! 国のために尽くすのは当然だろう! 国民が傷つけば癒す、それが姫の役目だ! 私は国を守るためにやった! 何が悪い!!」
「……違います……」

 あの日、兄と交わした約束が脳裏をよぎる。
 父上の望みを知った夜――
 逃げてはならないと、ふたりで決めた。
 力を使うたび、少しずつ失っていくこと。
 気付かれぬように、静かに。
 この力を戦のために継がせないために。
 
 ユリアは、震えながらも言葉を続けた。

「お父様は、この力があることに驕り、必要のない戦争を起こし、国民やティーン国の人々の命を奪いました。だから私は……この力を、失くすことにしたのです」
 
 ユリアが真っ直ぐ見つめ返す。
 涙の跡が残る頬で、しかし視線は逸らさなかった。
 すると、掴んでいた髪の力が、わずかに緩んだ。

「……ほう」

 シルクベイン王は低く笑った。

「何年もかけて、力が無くなっていくように見せていたというわけか。……見事だ。感心するほどにな」

 その視線が、ユリアの顔から、腕へ、指先へと這う。
 まるで“娘”ではなく、価値を量る品を見る目だった。

 ユリアの背筋を、冷たいものが貫いた。
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