敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

63 歪んだ望み

 シルクベイン王は、ゆっくりと顔を覆い、天を仰いだ。

「だが、もうよい。騙されていたことなど、水に流そう」

 ゆっくりと、歪んだ笑みを浮かべる。

「失われたと思っていた力が、まだあるのなら――
 これから増やせばよいのだ」

 そう言うと、ユリアの腕を乱暴に掴み立たせ、さらに奥の部屋へと歩かせた。
 
「お、お父様……どういうことですか? 何を、なさるおつもりですか……?」

 ユリアの胸に、言い知れぬ嫌な予感が広がった。
 そして、かつてヘレンに言われた言葉が脳裏をよぎる。

 ――本当に……お父様は……私に……。

 必死に抵抗しようとした、その時だった。

 バンッ!

 大きな音と共に扉が開き、男の叫ぶような声が響いた。

「おやめ下さい!!」

 室内にいた全員が、一斉に扉の方へと視線を向ける。

 そこに立っていたのは――
 かつてユーハイム国でユリアの護衛を務めていた、セルビアだった。
 アルジール国へ嫁ぐ日にも同行し、最後までユリアを案じてくれていた人物。

「セ……セルビア……?」

 久々に見るその姿に、ユリアは目を疑った。

「ユリア様! ご無事ですか!」

 セルビアは駆け寄り、すぐにその場で膝をつく。

「国王陛下! どうか……どうか、おやめ下さい!」

 深く頭を下げ、懇願するように声を絞り出した。

「……お前は、自分が誰に楯突いているのか分かっているのか?」

 シルクベイン王は、冷ややかな目でセルビアを睨みつけた。

「無礼であることは承知しております……。ですが……これは、あまりにも間違っております」

 セルビアは顔を上げ、悲痛な表情で訴えた。

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