敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 エルフナルドは答えず、奥の部屋の方へ目を向けた。

 その視線の先では、少年が楽しそうに宝飾品を広げ、ユリアに見せている。
 無邪気に笑う声が、かすかにこちらまで聞こえてきた。

 少ししてから、父親は遠慮がちに口を開いた。

「あの……このようなことをお尋ねするのは無礼かもしれませんが……」

 言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。

「息子を助けていただいたことで……その、王妃様は大丈夫でしたでしょうか?」

 火事からかなり日が経っている。
 それでも父親は、ずっと気になっていた。
 息子を救うために、何か無理をさせてしまったのではないかと。

「ああ。問題ない」

 エルフナルドは静かに答えた。

「私がついている。お前は息子のことを考えていればよい」

 短くそう言ってから、再び奥の部屋へ視線を向ける。

「それにしても、よい息子だ。育て方がよいのだろう」
「いえ、そんなことは……」

 父親は照れくさそうに頭をかいた。
 エルフナルドは、奥で笑う少年とユリアの姿を、どこか微笑ましそうに見つめていた。

「そろそろ帰ろうか」

 エルフナルドが声をかける。

 王宮へ向かう帰り道。
 馬に揺られながら、二人はゆっくりと広がる景色を眺めていた。

「すこぶる元気そうだったな」
「はい。前と変わらない様子で安心いたしました。お父上も元気そうで」

 ユリアは小さく微笑む。

「あの子の笑顔は、本当に癒されますね。心のわだかまりが晴れました」

 エルフナルドは少しだけ間を置いて尋ねた。

「お前は子供が好きか?」
「ええ。子供の笑顔には癒されます」
「……そうか」

 それ以上、エルフナルドは何も言わなかった。

 しばらくの沈黙のあと、ユリアが口を開く。

「今日は連れて来ていただき、本当にありがとうございました」
「ああ」

 エルフナルドは短く答える。

 馬は静かな街道を進んでいく。
 遠くには王宮の白い城壁が、夕暮れの光の中に浮かんでいた。
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