敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

71 声にできない願い

 自室に戻ったユリアは、アリシアと向かい合い、文字の勉強を始めた。
 庭園での出来事が頭を離れず、胸の奥がざわついた。
 
「ねえ、アリシア……」
「どうなさいましたか?」

 隣で文字の練習をしていたアリシアに、ユリアは静かに声をかけた。

「エルフナルド様が、第二夫人を娶られるという話は……今、どうなっているのかしら」
「……え?」

 一瞬言葉に詰まりながらも、アリシアはおそるおそる答えた。

「そのようなお話は、ずいぶん前から進んでいないと聞いておりますが……」

 ユリアの真意が掴めず、慎重に言葉を選ぶ。

「陛下は、毎日ユリア様とご一緒に過ごしていらっしゃいますし……。どうされたのですか? 急に」
「ちょっと、気になっただけよ」

 ユリアはそう言って、視線を落とした。

「ほら……私とエルフナルド様との間には、そういうことは……ないから」

 寂しげな表情を浮かべながらも、無理に小さく笑ってみせる。

「……でも、世継ぎは必要な世界でしょう? エルフナルド様は……どうなさるおつもりなのかしら……」
「……ユリア様は」

 アリシアは一度言葉を切り、そっと問いかけた。

「陛下とのお子を、望んでいらっしゃるのですか?」

 その問いに、ユリアは小さく首を傾げた。

「……わからないわ」

 しばらく間を置いて、静かに言葉を紡ぐ。

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