敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

73 不意の紙片

 ある日の朝、エルフナルドはいつもより早く目を覚まし、静かにベッドから降りた。
 その気配に、隣で眠っていたユリアも目を覚ます。

「起こしてしまったか? すまない」
「いえ……もう、お仕事に向かわれるのですか?」

 ユリアは目をこすりながら、そう尋ねた。

「ああ。今日は西の町へ行かなければならない。帰りも遅くなるだろう。夕食は一人で取ってくれ。先に休んでいて構わない」
「わかりました。どうか、お気をつけて」

 エルフナルドを見送った後、ユリアは朝食を済ませ、庭園へ向かった。

 先日の言葉は、確かに心を癒してくれた。
 それでも――理由もなく、信じきれない自分がいることに、ユリアは気付いていた。
 ――どうして、こんなにも疑ってしまうのだろう。

 答えが出ないまま、ユリアは考えることをやめるように、無我夢中で庭園の手入れと薬作りに没頭した。

「この薬草……そろそろ収穫できそうね。この薬草なら、何を調合しようかしら」

 手に取ったのは、庭園を任されるようになった頃に植え直した、南の国の薬草だった。
 ユリアはそれを指先で転がしながら、組み合わせを考える。

「あっ……」

 ふと、何かを思い出したように顔を上げる。

 ――確か……以前、書庫でティーン国の紋章が入った本を見たはず。
 あれに、薬草についての記述があったような……。
 その本は、ティーン国の文字で書かれていた。
 読めはしなかったが、丁寧な挿絵から、薬草の本だということだけは分かっていた。

「絵だけでも、何か分かればいいのだけれど……。新しい調薬が分かれば、少しでも役に立てるかもしれないし……」

 独り言を呟きながら、ユリアは書庫へ向かった。
 奥の棚へと進み、目当ての本を探す。

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