敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「あの戦を仕掛けて間もなく、私は一斉に命じた。
 ――お前の兄だけを狙え、とな」

 淡々と語られる言葉が、刃のように胸に突き刺さる。

「殺すな。だが、生かして連れて来い。そう命じてな。私の前に引きずり出し、拷問を加えさせた」

 ユリアの視界が、ぐらりと揺れた。

「お前のことを聞いても、なかなか口を割らなくてな。おかげで戦は、ずいぶん長引いた」

 頭を殴られたかのような衝撃に、ユリアは息を詰めた。
 ヘレンは確かに戦争で亡くなった。
 どれほど強くとも、戦場で命を落とすことはある――
 そう、納得しようとしてきた。

 ――でも……。
 まさか、私との約束を守るために……捕らえられ、拷問まで……。

 足から力が抜け、ユリアは崩れるようにその場にしゃがみ込んだ。
 大粒の涙が、止めどなく頬を伝う。

「疑われぬよう、戦を長引かせるのは実に骨が折れたよ。拷問を始めたのは、戦が始まって半年ほど経った頃だったか」

 先王は、まるで昔話でもするように続ける。

「随分長く続けたが……結局、あの男は最後まで吐かなかった」
「……もう……やめて……」

 ユリアは、かろうじて絞り出すように呟いた。

「おや? あの男が、最後に何を言ったか――
 知りたくはないか?」

 ユリアは咄嗟に耳を塞いだ。
 これ以上聞けば、心が壊れてしまう気がした。
 だが、先王は容赦しない。

『ユリアに、手を出すな』

 冷酷な声が、その言葉をなぞる。

「指を失い、足を奪われ、視力さえも奪われ……それでも最後にそう言ったのだ」

 ユリアの喉から、声にならない嗚咽が漏れた。

「挙げ句、最後には私に噛みつきおってな。そのせいで、私は……もう子を成す事もできん」

 歪んだ憎悪が、声に滲む。

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