敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「腹立たしくてな……。あまりの腹立たしさに、殺してしまった」
「やめて!! お願い……もう……やめて……!」

 噛み締めた唇から血が滲み、強く握りしめた掌にも、赤い筋が浮かんだ。
 ヘレンは、いつだってユリアを気にかけてくれた。
 力のせいで疎まれていた時も。
 計画を持ちかけた時も。
 力を失い、幽閉された後でさえも。

 ――私は、兄に何を返せただろう。

 罵倒され、力を使わず耐え続けた日々。
 本当は、楽になりたくて、力を使ってしまいたかった。
 兄を、少しだけ憎んだこともあった。

 それでも――。

 兄は最後の瞬間まで、ユリアを守り続けたのだ。

 ユリアは、ゆっくりと立ち上がった。
 涙に濡れた顔を拭うこともせず、真っ直ぐ先王を見据える。

「ほう……。この話を聞いて、まだ立っていられるとはな」

 先王は愉しそうに目を細めた。

「楽しませてくれるではないか、小娘」

 立っているだけで精一杯だった。
 それでも――
 これ以上、兄の想いを踏みにじらせたくはなかった。
 涙で滲む視界の向こうに、冷酷な先王の姿がある。
 それでも心の奥底で、何かが静かに燃え始めていた。

 ――絶対に、兄の想いを無駄にはしない。
 
 その視線は、冷酷な先王の目を逃すことなく、次に来る言葉に、静かに備えようとしていた。
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