敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 扉に手をかけたところで、ふと立ち止まる。

「分かっていると思うが……この話を、エルフナルドにしてみろ」

 振り返らずに、低く告げる。

「どうなるかは……お前が一番、よく分かっているはずだ」

 そう言い残し、先王は書庫を後にした。
 ユリアは、その場から動けなかった。

 ――どれほどの時間が経ったのか。

 息苦しさに耐えきれず、外の空気を求めて書庫を出ると、庭園の方からセルビアがこちらへ歩いてくるのが見えた。

「ユリア様。お側を離れてしまい、申し訳ありませんでした。もう戻ってよいとのことで……――どうされました?」

 雑務を終えて戻ってきたセルビアは、ユリアの顔色を見て、思わず足を止めた。

「な、何でもないの……」

 ユリアは、慌てて首を横に振った。

「少し……頭痛がするだけよ。ほら、雲も出てきたし……天気が崩れる前触れかもしれないわ。少し休めば大丈夫」

 咄嗟についた嘘だった。
 これ以上、顔を見られたくなくて、ユリアは俯いた。

「今日は、もう部屋に戻るわ」

 それだけ告げ、ユリアは足早にその場を離れた。
 胸の奥では、不安と恐怖が渦を巻いている。
 そして――
 先王が突きつけた「一週間」という期限と、子を成せという命令が、重くのしかかっていた。
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