敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「だから……兄上から奪うことにした。――貴方を」

 ユリアは反射的に反論しようと口を開いた。しかし、フレドリックの目に浮かんだ寂しげな色を見た瞬間、言葉が喉に詰まった。

「僕は貴方の力を確かめるため、貴方の侍女や薬師を襲わせ、力を使わせようとしました。結果は失敗でしたが……市場で起きた火事で、ついに貴方の力をこの目で見た。それから、力の存在を周囲に広め、貴方を奪う計画を立てたのです」

 一拍置き、低く続ける。

「……ですが、それも失敗した。貴方の父親が動き、僕が味方につけた者たちを奪ったからです。その後のことは、貴方も知っている通り」

 フレドリックの口元が歪んだ。

「二度の失敗で、僕の動きは父上に知られました。父上は、兄上と貴方の関係が上手くいけば、最初から僕に貴方の力の話をするつもりはなかったのでしょう。僕が嫉妬し、反乱を起こすことを、最初から見抜いていた……」

 そして、ユリアを見据えたまま問いかける。

「……父上に、僕が何と言われたか、知っていますか?」

 鼻で笑いながら、フレドリックは続けた。

「『フレドリックは、どうしてもあいつとは子を作らないようだ。今までの行動は見逃してやる。――これが最後のチャンスだ』……と。聞いた瞬間、怒りで全てを壊したくなりました」

 フレドリックは小さく、どこか虚ろな笑みを浮かべ、再びユリアへと一歩近づいた。

「だとしたら……尚更です。私と子供を作るなんて、間違っているわ。それこそ、先王陛下の思うツボでしょう? フレドリック様は、先王陛下を恨んでいたはず……本当に、それでいいのですか? 悔しくはないのですか?」
 
 ユリアの言葉は、責めるというよりも、必死に問いかける響きを帯びていた。
 しかし――その言葉は、フレドリックの中で必死に押さえ込まれていた何かを、決定的に壊してしまっていた。
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