敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「もう……こうするしかないのだ。これが……僕の生きる道だ……」

 その夜、ユリアの声は誰にも届かなかった。

「……助けて……エルフナルド様……」

 声は夜の静寂に溶け、虚しく消えていった。

 ***

 次に目を覚ました時、部屋には誰の姿もなかった。
 重苦しい静けさと、白く差し込む朝の光だけが現実を突きつける。

 身体の違和感が、昨夜が夢ではないことを告げていた。

 ――ああ……本当に……起きてしまったのね。

 視界の端に残された痕跡を見た瞬間、胸の奥が強く締めつけられた。
 呼吸が浅くなり、指先が冷たくなる。

 ――帰りたい。
 エルフナルド様の、もとに。

 願いは声になる前に喉の奥で潰れた。
 ユリアはその場に崩れ落ち、声を殺して泣いた。

 ――でも……もう……会えない。

 そう思った瞬間、胸のどこかで「何か」が音もなく折れた。

 日が暮れるまで、ユリアは動けなかった。

 夜になると、また同じことが繰り返された。
 最初の数日は、必死に逃げようと声を上げ、拒もうとした。

 だが――それも長くは続かなかった。

 痛みは次第に感覚を鈍らせ、
 恐怖も、悲しみも、境界を失っていった。

 半月ほどが過ぎた頃、医官が部屋を訪れた。
 妊娠の有無を確かめるための、淡々とした診察だった。
 結果を聞いた直後、フレドリックの怒りが爆発した。

「……お前は、僕がこれだけしているのに……それでも子を身籠れないのか」
「……申し訳……ありません……」

 謝る言葉だけが、辛うじて残っていた。
 それだけだった。
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