敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「そこでだ。お前を、ここから解放してやろうと思っている。子さえ産んでくれれば……前のように、自由に過ごして構わん」
「……そ、それは……どういう意味でございますか……」

 ユリアは、かすれた声を必死に絞り出した。

「王宮で過ごしてよいと言っている。エルフナルドの元に戻ることは許さぬが、元の環境で過ごせば、少しは落ち着くであろう」

 ――王宮に……帰る……?
 エルフナルド様の、いらっしゃる王宮へ……?

 一瞬だけ、胸の奥で何かが揺れた。
 懐かしい回廊、静かな庭、そして――
 優しく名を呼ぶ声。

 けれど、それはすぐに打ち消された。
 
 手紙一枚を残したまま、何の説明もせず去ってしまった自分が、今さら、どんな顔をして戻れるというのか。

「……結構です。私は、この部屋の中だけで――十分です」
「……まだ分からぬか?」

 先王の声が、鋭く遮った。

「お前に、子を産まぬという選択肢はない!! だからこそ、少しでも健康を優先してやろうと言っているのだ。何度言わせれば理解する?」
「……分かり、ました……」

 ユリアは、俯いたままそう答えた。
 その言葉は、了承ではなく――
 完全な、降伏だった。
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