敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 その答えに、フレドリックは満足しなかった。
 俯いたままのユリアに苛立ち、前髪を掴んで乱暴に顔を上げさせる。

「もし、疑われるようなことをした場合は……分かるな?」

 頭皮に走る痛みに耐えながら、ユリアは小さく頷いた。

「……はい……」

 半年ぶりに目にする王宮は、記憶の中よりも、ずっと遠い場所のように感じられた。
 庭園で待つように言われ、足を踏み入れると、ユリアは思わず周囲を見渡した。
 色とりどりの草花は、枯れることなく整えられ、雑草一つ生えていない。
 記憶の中の庭園と何も変わっていなかった。
 通路の曲がり方も、低木の並びも、あの頃のままだ。
 ここだけが、何事もなかったかのように、時を刻み続けている。
 
 ――きっと……クリック様や、アリシアが手入れしているのね。

 見慣れた光景に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
 込み上げてくるものを、ユリアは必死に飲み込んだ。

「ユ、ユリア様……? ユリア様なのですか?!」

 弾かれたような声に、ユリアの肩が僅かに震えた。
 振り返ると、驚愕の表情を浮かべたアリシアが立っていた。

「アリシア……久しぶり。……急にいなくなって、ごめんね……」

 精一杯、穏やかに微笑もうとしたが、表情はぎこちなく歪んだ。

「一体、どこにいらっしゃったのですか? 陛下も、とても心配していらっしゃいます。……こんなに、お痩せになって……。早く陛下のところへ――」

 アリシアが手を伸ばした瞬間、ユリアは反射的にその手を振り払った。

「エル……陛下の元へは、戻らないわ」

 自分でも驚くほど、淡々とした声だった。

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