敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「私には……王妃の務めが、重すぎたの。それで……逃げ出したのよ」

「そんな……。以前お悩みだった世継ぎのことでございますか? それなら一度、陛下と――」
「お待たせ、ユリア」

 背後からかけられた声に、ユリアの背筋が強張る。
 フレドリックは、ゆっくりと歩み寄り、ユリアの肩を抱いた。
 その腕は、庇うようでいて、逃がさないためのものだった。

「君は……確か、ユリアの専属侍女だったかな?」

 ユリアが答えるより早く、彼女が口を開こうとした瞬間――
 ユリアが先に言葉を重ねた。

「そうなの。フレドリック様。ずっと私の世話をしてくれていた子なの」

 アリシアを見ずに、続ける。

「私が急に王宮に戻ったものだから、驚いたみたいで……。とても心配してくれていたの」
「……どうして、ユリア様が……フレドリック様と……?」

 アリシアの声は、震えていた。

「今は、フレドリック様と一緒に暮らしているの。王宮から逃げた私を、受け入れてくださったのよ」

 一瞬、言葉に詰まったが、無理に続ける。

「……だから、心配しないで、アリシア。また……ここには来るわ」

 それが、どれほど残酷な嘘かを、自分が一番よく分かっていた。
 ユリアはフレドリックに促されるまま、庭園を後にした。
 背後で、アリシアが立ち尽くしている気配を感じながらも、振り返ることはなかった。

 振り返ってしまえば――
 自分が、もう“戻れない存在”になったことを、認めてしまいそうだったから。
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