敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった


 フレドリックは静かに、しかしはっきりと言い切った。

「お前の話は信用できない。ユリアに直接会う。どこにいる」
「何を仰っているのですか、兄上」

 フレドリックは首を振る。

「ユリア様は、ご自分の意思で兄上の元を離れたんです。連れてくるなど出来ません。それに……最近ようやく外へ出られるほど体調も回復されたところです。これ以上、心を乱すようなことはおやめください」
「……誰の許可で、そんな判断をする」

 エルフナルドの声が低く唸る。

「何度も申し上げますが、兄上の側にいたくなくて王宮を出られたのです。ユリア様の事を思うなら、早く離縁の手続きを進めるべきでは? ……仮に今後お会いすることがあっても、何も変わりませんよ」

 そう言い残し、フレドリックは一礼すると執務室を後にした。
 扉が閉まった瞬間、エルフナルドは拳を強く握りしめた。
 怒りを抑え込むように、手が微かに震える。
 程なくして、カリルがアリシアを伴って戻ってきた。

「陛下、アリシア殿をお連れしました。……どうかなさいましたか?」
「……フレドリックが来た。ユリアは自分の元にいると言ってな」

 エルフナルドは短く答え、アリシアへと視線を向けた。

「呼び出してすまなかった。ユリアの件だ」
「いえ……。ルトアご訪問中に失礼いたしました。ですが、急を要すると判断し……独断でお手紙を」
「いや、感謝している。……あの手紙の件、詳しく聞かせてくれ」
「はい……」

 アリシアは一度息を整え、語り出した。

「庭園でユリア様をお見かけしました。……ひどくお痩せになっていて……。私は思わずお部屋へ戻るよう申し上げましたが、自分から王宮を出たのだから戻れない、と……」
「……そうか」
「その後すぐフレドリック様が現れ……。王宮を出た後、自分が助けたのだと。……信じ難かったですが、ユリア様が嘘をついているようには、どうしても見えませんでした」

 エルフナルドの表情が、さらに険しくなる。

「申し訳ありません……。ですが、以前のユリア様とはまるで違うご様子で……。また王宮に顔を出すと仰っていました。どうか……陛下、ユリア様をお救いください」

 エルフナルドは目を閉じ、深く息を吐いた。
 フレドリックの言葉を、そのまま信じる気などなかった。
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