敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

88 静かな決意

 ユリアは、市場にほど近い場所に構えられた屋敷の一室にいた。
 部屋には、ユリアひとりきりだった。
 以前、医官の診察を受けた際、
「今の体調では、子を身籠ることは難しいでしょう」
 そう告げられてから今日に至るまで、フレドリックはユリアを抱くことをやめていた。
 ユリアの体調回復が最優先であり、子作りは控えたほうがよい――
 それが医官の判断だったからだ。
 だが、それを理由に、フレドリックはユリアと同じ部屋で過ごすことすら、ほとんどなくなった。
 子を作れないのであれば用はない、と言わんばかりに。
 軟禁されていた頃、ほとんど口をつけずにいた食事も、今では毎日監視されるようになり、食べないという選択肢は与えられなかった。

 少しずつ戻っていく体重。
 鏡に映る、自分の肉付きがわずかに戻ってきた身体。
 それを目にするたび、ユリアの胸には複雑な感情が広がった。

 ――もうすぐ、医官の診察の日だわ。

 もし、その日――
「子作りを再開しても問題ない」と言われてしまったら。

 ――また、あの地獄の日々が始まってしまう……。

 焦燥が胸を締めつける。

 ――早く……。
 早く、やり遂げなければ……。

 ユリアは、身を丸めるようにして、自分自身を強く抱きしめた。

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