敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 ――もう少しよ。もう少し……。
 もう少しで……完成する……。

 額を伝って、汗が一筋、静かに流れ落ちた。

 別の日。
 カリルが執務室に入ってきて、エルフナルドに声をかけた。

「陛下。薬師のクリック様が、陛下にお話したいことがあるといらっしゃっています。お通ししてもよろしいでしょうか?」
「ああ」

 程なくしてノックの音がし、クリックが執務室へと入ってきた。

「どうした? 何の用だ?」
「ユリア様のことで、ご相談があるのですが……」

 エルフナルドは、クリックの名を聞いた時点で、用件はユリアに関することだと察していた。
 そのため、特に驚いた様子も見せず、静かに頷いた。

「ああ。話してくれ」
「……ユリア様が王宮にお戻りになってから、再び庭園に足を運ばれるようになったのですが……少し、引っかかることがございまして……」
「……何だ?」

 エルフナルドは眉をひそめ、クリックを見据えた。
 クリックは一瞬言葉を探すように視線を落とし、短い沈黙の後、口を開いた。

「以前から薬草の手入れ方法は、ユリア様より教えていただいておりました。しかし最近は……前にも増して、細かい管理方法まで私に教えてくださるのです。本来は『難しいもの』や『扱いに注意が必要なもの』は、ご自分でなさるとおっしゃっていたのに……それらまでも」

 クリックは言葉を選ぶように、一度息を整えた。

「最初は、教えていただけることが素直に嬉しくて、疑問に思いませんでした。ですが……なぜ、今なのか、と。ユリア様にお尋ねすると、『自分が庭園に来られない日もあるかもしれないから』と……そうおっしゃいました。ですが……どうにも、それが本心には思えず……」

 そこまで話すと、クリックは言葉を止めた。
 執務室には、重い沈黙が落ちる。

 エルフナルドは何も言わず、ただ黙ってクリックを見つめていた。

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