敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 自分は、ユリアに「好きだ」「愛している」と……一度でも、はっきりと伝えただろうか。
 能力が子に影響しないかと怯えながらも、それでも自分との子を望んだユリアに、何と答えただろうか。

 望んでいる、と口にしただけで……それ以上、何も与えなかった。

 拒んでしまった日々。
 そして、傷ついたはずのユリアの言葉を、都合よく信じてしまった自分。

 ――私の、臆病さと……自尊心のせいだ。

 エルフナルドは、ゆっくりと顔を上げ、セルビアを真っ直ぐ見た。

「……セルビア。すまなかった。お前のおかげで……気付くことができた」

 そして、はっきりと告げた。

「ユリアを……迎えに行こう」
「……ありがとうございます。陛下」

 セルビアは、安堵したように息を吐き、深く頭を下げて部屋を後にした。
 エルフナルドは立ち上がり、ユリアの元へ向かおうと執務室を出た、その時――

「陛下! 大変です!」

 一人の騎士が駆け寄ってきた。

「南の村で内乱が発生しました。負傷者も多数出ております」
「何だと……?」
「陛下。あの村はヤレン国との国境沿いです。早急に鎮圧しなければ、攻め入られる危険があります」

 カリルの言葉に、エルフナルドは歯を食いしばった。

「……分かっている。先に、こちらを対処しよう……」

 エルフナルドは、ユリアの元へ向かおうとしていた足を、無理やり止めた。
 胸の奥がざわつき、視界の片隅に影が揺れるような気がした。
 遠く、誰かの悲鳴が響く未来が――
 それが、彼女の声でないことを、祈りながら。
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