敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 ――たとえ私が、フレドリック様の子を身籠ったとしても……。
 エルフナルド様の身が危険に晒される事実は、何ひとつ変わらない。
 ……やはり、この方は……。

 胸の奥が、静かに締め付けられた。

――この国を守れるのは、エルフナルド様しかいない。

 目を逸らしてきた答えが、否応なく突き付けられる。

 ――……止めなければ。
 もう、他に選べる道はない。

 ユリアは深く息を吸い、震える指をぎゅっと握りしめた。


 翌朝。
 ユリアが朝食を取っていると、扉が開き、フレドリックが入ってきた。

「分かっているとは思うが、今日は医官の診察の日だ」
「きちんと受けろ。王宮に行っていいのは、その後だ」

 命令口調で、拒否を許さない声音。

「……はい。分かりました」

 視線を伏せたまま、ユリアは静かに答えた。

 ――この日が、来てしまった。

 今日の診察で許可が下りれば、再びあの地獄が始まる。
 それを、フレドリックも分かっている。だから、こうして念を押した。

 逃げ道は、もうない。

 そして――
 昨日耳にした話が真実なら。
 明日、エルフナルド様は北へ向かわれる。
 その道中で……。

 命を奪うのか。
 それとも、生かしたまま幽閉するのか。
 どちらにせよ、エルフナルドに何かあれば、王位を継ぐのはフレドリックだ。

 ――……もし、私が子を身籠っていれば……。

 そこまで考え、ユリアは奥歯を強く噛み締めた。

 そっとポケットに手を入れる。
 指先に触れた、小さな硝子瓶。

 冷たい感触が、決意を現実へと引き戻した。

 ――……やるしかない。

 ユリアは、小瓶を強く握りしめた。

< 232 / 238 >

この作品をシェア

pagetop