敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 医官の診察を終え、ユリアは馬車で王宮へ向かっていた。
 告げられたのは、予想通りの言葉。

「子作りを再開しても、問題はないだろう」

 今夜には、フレドリックの耳にも入る。
 そう思うと、胸の奥が重く沈んだ。

 ユリアは静かに息を吐いた。

 ――……大丈夫。
 きっと……。

 自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返す。

 王宮に着くと、薬事室でいつも通り作業をこなした。
 身体は動いているのに、意識はどこか遠い。

 昼過ぎ、庭園へ出て、ふと顔を上げる。
 かつて自分の部屋だった廊下の窓に、人影が見えた気がした。

 ――……エルフナルド様。

 一瞬、確かにそう見えた。

 ――お疲れのよう……。
 ちゃんと、食事は取れているのかしら。

 無意識に伸ばしかけた手を、途中で止める。

 今の自分には、届かない。

 ユリアは目を閉じ、深く息を整えた。

 ――どうか……お元気で。

 それが、最後の願いになるかもしれない――
 そんな思いが、胸をよぎった。
 
 
「ユリア様」

 呼び止められ、振り返ると、見張り役の騎士が事務的に告げた。

「フレドリック様より、本日は早めにお帰りになるようにとの事です。ご一緒に夕食を取るように、と」

 ――……やはり。

「……分かりました」

 ユリアはそう答え、それ以上は何も言わなかった。

 帰り支度を整え、ユリアは静かに王宮を後にした。
 屋敷へと向かう馬車の中で、ポケットの中の小瓶の存在が、重く主張し続けていた。
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