敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
91 静寂の刹那
屋敷に戻ると、すでにフレドリックは帰宅していた。
その事実を知っただけで、ユリアの心臓が一度、大きく脈打つ。
逃げ場はない。
今日だと、分かっていた。
ユリアは機械的に着替えを済ませ、指先の震えを抑えるように何度も握っては開いた。
ポケットの中で、小瓶がわずかに触れ合う。
――落とすな。
割るな。
最後まで冷静に……
「失礼します」
ノックして扉を開けると、フレドリックは椅子に腰掛け、無言でこちらを見ていた。
その視線は、すでに“所有物”を見るものだった。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
頭を下げ、向かいに座る。
背筋を伸ばしていなければ、今にも崩れ落ちそうだった。
「医官から結果は聞いた」
低く、断定的な声。
「次は必ず身籠ってもらう。体調管理を怠るな」
一瞬、言葉を切る。
「次に何かあれば……分かるな?」
「……はい」
それ以上、会話はなかった。
食事の音だけが、やけに大きく響く。
ユリアは味のしないパンを噛みしめながら、頭の中で何度も自分のこれからの行動をなぞっていた。
その事実を知っただけで、ユリアの心臓が一度、大きく脈打つ。
逃げ場はない。
今日だと、分かっていた。
ユリアは機械的に着替えを済ませ、指先の震えを抑えるように何度も握っては開いた。
ポケットの中で、小瓶がわずかに触れ合う。
――落とすな。
割るな。
最後まで冷静に……
「失礼します」
ノックして扉を開けると、フレドリックは椅子に腰掛け、無言でこちらを見ていた。
その視線は、すでに“所有物”を見るものだった。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
頭を下げ、向かいに座る。
背筋を伸ばしていなければ、今にも崩れ落ちそうだった。
「医官から結果は聞いた」
低く、断定的な声。
「次は必ず身籠ってもらう。体調管理を怠るな」
一瞬、言葉を切る。
「次に何かあれば……分かるな?」
「……はい」
それ以上、会話はなかった。
食事の音だけが、やけに大きく響く。
ユリアは味のしないパンを噛みしめながら、頭の中で何度も自分のこれからの行動をなぞっていた。