敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 ――怪しまれてはいけない、“自然に”。

 食事が終わると、ユリアは静かに口を開いた。

「あの……紅茶でも、お飲みになりますか?」
「不要だ。支度を終えたら部屋で待っていろ」

 そう言い残し、フレドリックは部屋を出て行った。

 扉が閉まった瞬間、ユリアは息を吐いた。
 肺の奥に溜まっていた空気を、すべて吐き切るように。
 手のひらは、汗で湿っていた。

 しばらくして、フレドリックが戻ってくる。
 冷たい視線が、ユリアを上からなぞる。
 ベッドに座るユリアに覆いかぶさり、乱暴に身体へ触れてきた。

 反射的に身が強張る。
 だが、それを悟られてはいけない。

「あの……フレドリック様……」

 声が、思ったより掠れていた。

「……抵抗など、致しませんから……」
 
 喉を絞るように言葉をつなぐ。
 
「どうか……優しく……お願いします」

 震える手で、フレドリックの胸に触れた。

「……ならば、俺を昂らせてみろ」

 低く、苛立ちを含んだ声。

「抵抗されるのも腹が立つが、何の反応もないのは興ざめだ」
「……分かりました」

 ユリアはゆっくりとシャツのボタンを外した。
 身体を寄せ、触れ、求められる行為を淡々と続ける。

 ――……大丈夫。
 ……ここまで、耐えてきた。

 フレドリックの呼吸が、徐々に乱れ始めた。

「……やればできるじゃないか」

 命じられるまま、ユリアはさらに触れる。
 直接、舌で。

 その間、ユリアの心は奇妙なほど静かだった。

 ――これでいい。これで、終わる。

「……はぁ……」

 フレドリックの喉から、甘い吐息が漏れた。
 ユリアは顔を上げ、フレドリックの頬に手を添える。
 ユリアは小瓶の中身を一気に口に含んだ。
 そして――フレドリックに、深く口づけた。
 
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