敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 ――全てを知らなければならない。
 父上の口から、全てを聞き出してからだ。
 生かすか、殺すかを決めるのは、その後でも遅くはない。

 先王の部屋の前に立つと、エルフナルドは一度だけ目を閉じ、深く息を吐いた。

「陛下……大丈夫ですか?」

 立ち止まったままのエルフナルドを見て、カリルが控えめに声をかける。

「ああ。問題ない」

 扉を開けると、ベッドの上で上半身をわずかに起こした先王が、濁った目でこちらを見ていた。

「……ご気分はいかがですか?」
「気分が良さそうに見えるか? 実の息子に刺された父親が」

 その言葉に、エルフナルドは冷笑を浮かべた。

「死の淵から生還した者の台詞とは思えませんね。……やはり、あの時息の根を止めておくべきでした」

 睨み据えるエルフナルドに対し、先王は苦々しげに自分の身体へ視線を落とした。

「……お前のせいで、手も足もまるで動かん」 
「神経を断ち、心臓を狙いました。わずかに外したのが悔やまれます」

 エルフナルドの声には、隠しきれぬ悔恨が滲んでいた。
 あの時、確実に殺すつもりだった。だが、動揺が一瞬の迷いを生み、刃は致命点を外した。

「……あの娘と、フレドリックはどうなった?」
「ユリアのことを、貴方に答えるつもりはありません。フレドリックは目を覚ましています。もっとも、もう貴方の言葉に従うことはないでしょう」
「……そうか」

 先王は短く呟き、目を閉じた。

「私が貴方を生かした理由は一つです。全てを話してもらうためです。貴方がしてきたこと、その全てを」

 しばし沈黙が落ちた後、先王は鼻で笑った。

「……いいだろう。どうせこの身体では、もう何もできん。だが覚悟はあるのか? あの娘を想っているお前には、耐え難い話になるぞ」

 嘲るような視線を向けられても、エルフナルドは何も答えず、ただ静かに見返した。
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