敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

97 意識の果て

 エルフナルドはユリアの部屋に入ると、静かに扉を閉め、ベッドの横に置かれた椅子に腰を下ろした。
 部屋には、薬草と消毒薬が混ざったような、かすかな匂いが漂っている。
 眠ったままのユリアの顔を見つめたまま、エルフナルドはアシュリー王の言葉を思い返し、無意識のうちに拳を強く握りしめていた。

 ――ああ……。ユリアはどれほど辛かったことだろう……。
 心も、体も、尊厳さえも踏みにじられながら――
 それでもユリアは、自分の危険を顧みず、私を守ろうとした。

 ――この手を、決して離してはいけなかった。
 片時も、離れるべきではなかったのに……。

 エルフナルドは震える息を整えながら、そっと手を伸ばし、ユリアの冷たい手を包み込むように握った。
 そのまま額を下げ、声を絞り出す。

「すまない……。本当に……すまない……。どうか……どうか、目を覚ましてくれ……」

 それは謝罪であり、懺悔であり、祈りだった。
 エルフナルドは何度も何度も同じ言葉を繰り返し、ユリアの手を離すことができずにいた。
 しばらくして、控えめなノックの音が部屋に響き、扉が静かに開いた。

「陛下。少しご相談したいことがあるのですが……今、お時間よろしいでしょうか?」

 顔を上げると、そこにはカリルが立っていた。

「ああ。……執務室で聞こう」

 名残惜しそうにユリアの手をそっと離し、エルフナルドは立ち上がると、カリルと共に部屋を後にした。

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