敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「元々、この場所は普通の庭園でした。しかし、十五年ほど前から、第一王太子であらせられたリヒター様が、薬草専用の庭園として手入れをされていたのです」

 クリックは周囲を見渡し、懐かしむように続けた。

「ここにある薬草は、すべてリヒター様が他国から持ち帰られたものばかりで……私には見たことのないものばかりでした。ですので、教えを請いながら、薬の調合をお手伝いをしておりました」

 その声色には、尊敬と誇りが滲んでいた。

「私は薬師として、この国の薬草と薬には通じておりますが……他国のものとなると話は別でして。リヒター様がお亡くなりになられた後、庭師の方々と協力して世話を試みましたが……このような有様に」

 クリックは悔しそうに庭園を見渡した。
 
「そうだったのですね」

 ユリアは静かに頷いた。

「でも、この王宮には他にも薬師の方がいらっしゃると聞きました。どなたか、分かる方はいらっしゃらなかったのですか?」

 その問いに、クリッの表情はさらに陰った。

「この国の薬草ではないため、他の薬師たちは皆、栽培に反対しておりました。協力は得られず……」
「なるほど……。他国の文明を取り入れるというのは、誰でも躊躇してしまいますものね」
「ですが!」

 クリックは思わず声を強めた。
 
「躊躇ばかりしていては、何も発展いたしません。リヒター様がこの薬草を研究される姿に、私は胸が踊りました。新たな発見の一助となれることが、誇りだったのです」

 拳を握りしめ、続ける。

「……ですが、リヒター様が亡くなられ……希望は一度、完全に断たれました。それでも、あのお方の志を、私が繋いでいきたいと……そう思ったのです」

 クリックは一瞬、言葉を切り、視線を落とした。
 
「しかし……私が関わっていたのは、収穫された薬草の調合のみ。栽培には携わっておらず……このような結果を招いてしまいました」

 そう言って、枯れた薬草をそっと手に取る。

「それでも、未練がましく……時折ここへ足を運び、こうして眺めてしまうのです」

 クリックは視線を落とし、やり場のない思いを静かに滲ませていた。
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