敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 赤黒く変色したままの指先。
 毒によって壊死しかけ、奇跡的に切断を免れたものの、元には戻らなかった痕。

 ――もし意識を取り戻しても、麻痺や歩行困難が残る可能性がある。

 医官の言葉が、エルフナルドの脳裏をよぎる。

「……お前は、一か月近く眠っていた」

 声を落とし、エルフナルドは続けた。

「無理をするな」

 それ以上、手足のことには触れなかった。
 代わりに、ユリアの体をそっと抱え上げた。

「へ、陛下!?」

 突然のことに、ユリアは小さく声を上げた。

「どこへ行こうとした?」

 エルフナルドは、抱き上げたまま静かに問いかける。

「……少しだけ……外の空気を……」

 俯いたままの、小さな声。

「バルコニーでいいか?」

 そう言って、エルフナルドは返事を待たずに歩き出した。

「だ、大丈夫です! 陛下にそんな……」
「構わない」

 短く、しかし揺るぎない声音だった。

 バルコニーへ出ると、夜気がゆるやかに頬を撫でた。
 エルフナルドは長椅子にユリアを座らせ、ゆっくりと手を離した。

「あの……ありがとうございます……」

 ユリアがそう礼を述べると、エルフナルドは返事をせず、そのまま外を見つめていた。
 夜空を仰ぐ背中は、どこか張り詰めている。

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