敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

99 生きるということ

 次の日、ユリアは朝から医官の診察を受け、壊死しかけた手足の状態について、詳しい説明を受けた。
 血流の低下、神経の損傷、回復の見込み――淡々と告げられる言葉の一つ一つが、ユリアの胸に重く沈んでいく。
 だが説明を受ける前から、ユリア自身も、自分の手足の異変には薄々気付いていた。
 むしろ、切断せずに済んだこと自体が奇跡だと思ったほどだった。
 それほどまでに、あの毒薬は強力だった。
 自分の知識と力を注ぎ込み、確実に命を奪うため作り上げた毒。
 それを自分自身に使ったのだから、助かる道理などないと――そう信じ切っていた。
 だからこそ、こうして命を繋ぎ止められた事実が、素直に喜びにはならなかった。
 医官達がどれほどの時間と労力をかけ、必死に処置を施してくれたのかを思うと、胸の奥が締め付けられるように苦しくなった。
 
 ――自分がしてしまった事の重大さは、理解していた。
 それ故に、自らも命を落とすと決めた。
 罪からも、恐怖からも、力からも――何もかもから解放されたかったから……。
 まさか、自分が生き残ってしまう道など、考えたこともなかった。
 改めて「今、生きている」という事実を突き付けられ、ユリアの胸に広がったのは、安堵ではなく深い絶望だった。

 医官達が説明を終え、静かに部屋を後にすると、重たい沈黙だけが残った。
 ユリアはゆっくりと、自身の手を持ち上げて眺めた。

 変色した皮膚。
 生きているはずなのに、どこか死に近い色を帯びた手。

 しばらくして、ユリアは自分の左手に、右手をかざした。
 意識を集中させ、かつて幾度となく人を癒してきた感覚を思い出しながら、力を込める。
 だが、どれほど願っても、どれほど集中しても、赤黒く変色した肌が元に戻ることはなかった。

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