敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 ユリアは静かに息を吐き、ベッド横のテーブルに視線を移した。
 そこに置かれていたボールペンに手を伸ばし、迷うことなく、左手の皮膚に深く押し当てた。

 ぷつり、と鈍い感触と共に血が滲み出した。
 だが、思ったほどの痛みはなかった。

 ――痛みすら遅れている。
 麻痺が残っているせいなのだろう――そう理解すると同時に、胸の奥が冷えていく。

 ユリアはもう一度、左手に右手をかざし、力を込めた。
 すると、先程まで確かにあった傷口が、まるで最初から存在しなかったかのように、綺麗にふさがっていった。

 ――やはり……。
 傷を負った直後なら、力は働く。
 けれど、時間が経った傷には……作用しないんだわ……。

 自分の手足に起きている壊死は、すでに「過去の傷」なのだ。
 いくら力を使おうとも、元には戻らない。

 ――ならば……私の手足を、この力で治すことは……できない……。

 ユリアは小さく、かすれたため息をついた。
 手足が壊死しかけているにも関わらず、自分の力だけが、こうして残っていることが、どうしようもなく残酷に思えた。

 同時に――
 その力をもってしても、自分自身の体を救えないという現実が、深く心を打ちのめした。

 ――これでは……今まで以上に、この国のお荷物でしかないわ……。
 一体、私はどうしたらいいの……。
 こんな手足で……自分に、何ができるというの……。

 答えのない問いが、頭の中を何度も巡った。

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