敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

100 再び立つために

 その日からユリアは、毎日欠かさず訓練を続けた。
 許可を得て庭園へも通うようになった。
 訓練の成果もあり、左手は少しずつ動くようになってきた。
 しかし、自分の力だけで車椅子を漕ぎ続けるには、体力も筋力もまだ足りない。
 結局、庭園以外の移動では、誰かに車椅子を押してもらうしかなかった。

 ――もっと……もっと、自分で出来るようにならなきゃ……。

 順調に見える訓練とは裏腹に、ユリアの夜は荒れていった。
 眠れない日々が続き、意識を閉じても、心は休まらない。
 そんなある日、ユリアの元をセルビアが訪ねてきた。

「ユリア様、ご無沙汰しております。お身体の具合はいかがですか?」
「お務めご苦労さま、セルビア。ほら……左手、ずいぶん動くようになってきたのよ」

 ユリアは微笑みながら、まだ震えの残る左手を持ち上げてみせる。

「……頑張っていらっしゃるのですね」

 そう言った後、セルビアは一瞬言葉を探すように間を置き、静かに問いかけた。

「……ですが、ユリア様。夜は……眠れていらっしゃるのですか……?」

 その一言に、ユリアの胸が小さく跳ねた。

「……ええ。大丈夫よ」

 ユリアはセルビアから視線を逸らし、短く答える。

「お薬は……飲んでいらっしゃいますか?」
「……少しね。ただ、この国のものは……私にはあまり効かなくて……」

 クリックに処方してもらった睡眠薬は、確かに飲んでいる。
 けれど、眠りは浅く、すぐに途切れてしまう。

「でも、左手が動くようになってきたから……前みたいに、自分で調合して飲もうと思っているの。だから、心配はいらないわ」

< 260 / 322 >

この作品をシェア

pagetop