敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「それは良かったな」

 エルフナルドは静かに頷く。

「だが……ほどほどにしろ。無理をして、また眠れなくなっては意味がない」
「……はい。気をつけます」
「では、今日はゆっくり休め」

 それだけ言うと、エルフナルドは部屋を後にした。
 
 ユリアが眠りについた深夜、エルフナルドは昨日と同様、ユリアの様子を見に部屋を訪れた。
 忍び足で扉を開け、音を立てないように中へ入る。
 ベッドに近付くと、昨日と同じく、ユリアは苦しそうな表情を浮かべながら眠っていた。
 眉は寄せられ、浅い呼吸が規則なく続いている。

「毎晩……悪夢を見ているのか……」

 低く呟いた声には、苛立ちよりも自責の色が滲んでいた。
 エルフナルドはユリアを起こさぬよう、そっとベッドに腰掛けると、背に手を伸ばし、優しく撫でる。
 昨日はそれだけで次第に落ち着いたのだが、今日は違った。
 ユリアの身体は小刻みに震え、呼吸も浅いままだ。

「……」

 エルフナルドは一瞬ためらったが、意を決したようにもう一歩距離を詰め、自身もベッドに横になる。
 おそるおそる腕を回し、ユリアを抱き締めた。
 しばらくの間、ユリアの身体は強張ったままだったが、やがて震えが徐々に収まっていく。
 エルフナルドは安堵の息を漏らしながらも、そのまま背を撫で続けた。
 それからも、エルフナルドは毎晩ユリアの部屋を訪れた。
 明け方近くまでユリアを抱き締め、震えが止まらない日は、眠りが深くなるまで背を撫で続けた。
 その夜を境に、ユリアの眠りは少しずつ穏やかなものへと変わっていった。
 エルフナルドが夜中、ユリアの元で過ごしていることは、アリシアやカリルは薄々気付いていた。
 だが、ユリアには決して知らせないようにと、固く口止めされていた。

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