敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

102 眠れる夜

 その日の夕刻、部屋での夕食を終える頃、エルフナルドが訪ねてきた。

「今日は一人で車椅子を押して庭園まで行ったそうだな」
「はい。左腕もだいぶ動くようになりまして……。まだ時間はかかりますが、一人で行動できる範囲が広がったのは良かったです。皆様へのご負担も、少しは減らせるかと」
「そんなことは、気にする必要はない」

 エルフナルドは、わずかに眉を寄せてそう言った。

「……お前に、話がある」
「……何でしょうか」

「急遽、明日から西の国へ視察に向かうことになった。1ヶ月ほど、王宮を留守にする」
「……そうでございましたか。お気を付けて行ってらっしゃいませ」

 ユリアは、浮かない表情のエルフナルドを見て胸が痛んだ。

「……お前も、一緒に来ないか?」
「……え?」
「西の国は冬でも暖かい。珍しい花や薬草も多いと聞く。お前なら……きっと気に入る。一度……見てみたくはないか?」

 ユリアの胸が、きゅっと締め付けられた。
 行ってみたい。心から、そう思った。

 だが、今の自分の足では到底無理だった。
 それでもエルフナルドは、自分が望めば、どんな手段を使ってでも連れて行ってくれるだろう。

「……お気遣い、ありがとうございます。ですが、私は王宮に残ります。今日から煎じ始めた薬草もありますし……。お気持ちだけ、頂戴いたします」

 精一杯の笑顔で、ユリアは答えた。

「……そうか。何かあれば護衛に言え。すぐに私へ知らせが入るようにしておく」
「はい……ありがとうございます」

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