敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
ある日、庭園の奥で、ユリアはそっと車椅子から離れた。
車椅子をすぐ傍に置いたまま、石壁に片手をつき、慎重に一歩を踏み出す。
――大丈夫……。
一歩、また一歩。
二歩、三歩と進むたびに、足は小刻みに震え、視界がわずかに揺れた。
それでも、倒れなかった。
歩けた距離は、ほんの数歩に過ぎない。
だがその数歩は、今までで一番遠く、重く、尊い距離だった。
ユリアの瞳には、達成感だけでなく、これから先を見据えた揺るぎない覚悟が宿っていた。
そして日々の訓練を重ねた末、時間こそかかるものの、杖を使えば自室から庭園までを一人で歩けるようにまで回復していた。
――よし……やっと、この道を一人で歩けるようになったわ。
胸に込み上げる喜びと同時に、なぜか小さな寂しさが滲んだ。
ユリアはその感情を噛み締めながら、静かに息を整えた。
その後ろ姿を、少し離れた場所からクリックが見守っていた。
何も言わず、ただ静かに。
――ああ……そろそろ、ユリア様は私と交わした、あの約束を……。
そう思っていると、ユリアがゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「クリック様、こんにちは。……今日、自分の足でここまで歩いてくることができました」
息を整えながら、ユリアはそう告げた。
「時間はかかってしまいましたが……あの日の約束を……お願いしても、よろしいでしょうか」
クリックは一瞬だけ目を伏せ、それから静かに頷いた。
「……はい。ですが……陛下には、もうお伝えになられたのですか?」
「いえ……まだです。これから、お話ししようと思っています」
「……そうですか……」
二人の間に、短い沈黙が流れた。
「では、日時が決まりましたら……改めてお知らせください」
「はい。ありがとうございます」
――歩けるようになったら、必ず伝える。
私のこの想いを……。
車椅子をすぐ傍に置いたまま、石壁に片手をつき、慎重に一歩を踏み出す。
――大丈夫……。
一歩、また一歩。
二歩、三歩と進むたびに、足は小刻みに震え、視界がわずかに揺れた。
それでも、倒れなかった。
歩けた距離は、ほんの数歩に過ぎない。
だがその数歩は、今までで一番遠く、重く、尊い距離だった。
ユリアの瞳には、達成感だけでなく、これから先を見据えた揺るぎない覚悟が宿っていた。
そして日々の訓練を重ねた末、時間こそかかるものの、杖を使えば自室から庭園までを一人で歩けるようにまで回復していた。
――よし……やっと、この道を一人で歩けるようになったわ。
胸に込み上げる喜びと同時に、なぜか小さな寂しさが滲んだ。
ユリアはその感情を噛み締めながら、静かに息を整えた。
その後ろ姿を、少し離れた場所からクリックが見守っていた。
何も言わず、ただ静かに。
――ああ……そろそろ、ユリア様は私と交わした、あの約束を……。
そう思っていると、ユリアがゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「クリック様、こんにちは。……今日、自分の足でここまで歩いてくることができました」
息を整えながら、ユリアはそう告げた。
「時間はかかってしまいましたが……あの日の約束を……お願いしても、よろしいでしょうか」
クリックは一瞬だけ目を伏せ、それから静かに頷いた。
「……はい。ですが……陛下には、もうお伝えになられたのですか?」
「いえ……まだです。これから、お話ししようと思っています」
「……そうですか……」
二人の間に、短い沈黙が流れた。
「では、日時が決まりましたら……改めてお知らせください」
「はい。ありがとうございます」
――歩けるようになったら、必ず伝える。
私のこの想いを……。