敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

106 散歩の終わりに

 その夜、エルフナルドがユリアの部屋を訪れた。

「訓練はどうだ?」

 その問いに、ユリアは背筋を伸ばして答える。

「はい。時間はかかりますが、杖を使えば部屋から庭園まで歩けるようになりました。すべて……陛下や皆様のおかげでございます」

 深く頭を下げるユリアに、エルフナルドは静かに首を振った。

「私は何もしていない。成し遂げたのは、お前自身だ」

 ユリアは小さく頷き、再び頭を下げた。

 ――今だわ。歩けるようになったら、必ず伝えようと決めていたことを……。

 意を決し、口を開こうとした、その瞬間。

「今日は、お前に提案があって来たのだが……」

 先にエルフナルドが口を開いた。

「……提案、ですか?」
「明日、少し散歩に出かけないか?」
「散歩……?」
「王宮の中ばかりでは息が詰まるだろう。馬を走らせて、少し遠出をしてみたい」

 その言葉に、ユリアは戸惑いを浮かべた。

「……ですが……この足です。馬に、うまく乗れるかどうか……」
「一人で乗せるわけがないだろう。相変わらずだな」

 エルフナルドは苦笑して続けた。

「以前も一緒に乗っただろう?」
「……そうでしたね。ですが、陛下はお忙しいのでは……」
「ああ。だが最近は働き詰めだった。私自身の気晴らしでもある。一緒に行ってはくれないか?」

 ユリアは一瞬だけ迷い、それから小さく頷いた。

「……分かりました。よろしくお願いいたします」

 ――明日、話そう。
 私の考えを……すべて。

 ユリアは胸の奥でそう決めながら、静かに目を伏せた。
 
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