敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「私はもう王妃ではありません。この足では、侍女として働くこともできません。……この王宮に留まる理由が、もうないのです」

 エルフナルドは言葉を失った。
 ただ「そばにいてほしい」と言いたかった。
 だが、ユリアの表情は、迷いのない決意に満ちていた。

「幸い、私は薬を煎じることができます。クリック様のお口添えで、市場近くの医局で働かせてもらえることになりました。医師や薬師が暮らす場所も近くにあるそうで……そこに身を寄せようと思っています」

「なぜだ……? 薬なら、これまで通り王宮の薬事室で――わざわざ外に出る必要はないだろう」
「……王宮では、だめなのです」

 ユリアは俯き、震える声で続けた。

「……ここにいては……陛下のおそばにいることが……辛いのです」

 その言葉は、重く、エルフナルドの胸に落ちた。

「……この王宮から、離れたいんです。……ごめんなさい……」

 涙を浮かべて訴えるユリアを前に、エルフナルドはしばらく黙り込んだ後、絞り出すように言った。

「……わかった」

 ユリアは深く、深く頭を下げた。

「今まで……本当に、お世話になりました」

 それ以降、二人は言葉を交わさなかった。

「……そろそろ日も暮れる。帰ろうか」
「……はい」

 帰り際、ユリアはエルフナルドの背中越しに、恐る恐る尋ねた。

「あの……陛下がお話しになりたかったことは……?」
「……大した話ではない。もう、よい」
「……そう……ですか」

 再び、沈黙が落ちた。

 エルフナルドは、本当は伝えるつもりだった。
 もう一度、共に歩まないかと。
 夜毎に重ねた温もりに、ユリアもまた心を開き始めてくれているのだと、信じたかった。
 だが、王宮を出たいと告げたユリアの悲痛な表情を前に、その言葉は喉の奥で消えた。

 ――結局、ユリアは私の元を去りたいのだ。
 父と弟の罪を背負う、この私のそばに居続けることなど……。

 守ると決めた。
 目覚めた日から、全てから守り抜くと。

 だが――それは、私のエゴなのか。

 もしユリアが望まないのなら、手放すしかないのかもしれない。
 彼女を苦しめるくらいなら……。
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