敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
108 駆ける先に
それから半年ほどが過ぎていた。
市場近くの医局での生活が始まってから、ユリアはすっかり医局の一員として馴染んでいた。
足の不自由さに悩まされることはあっても、働く喜びと、人の役に立てている実感が、そこにはあった。
そんなある日のことだった。
薬事室の扉が慌ただしく開き、同じ薬事室で働く薬師の一人が、やや切迫した表情で入ってきた。
「……どなたか、馬に乗れる方はいませんか?」
室内にいた者たちが、一斉にその薬師の方を見た。
「何かあったのですか?」
作業の手を止めたクリックが、静かに問いかける。
「そ、それが……この数日の大雨で、北の方で大きな土砂崩れがありまして……。被害者がかなり出ているようなんです」
薬師は息を整えながら続けた。
「救援物資も、負傷者の手当をする人手も足りていません。医師たちにも声をかけているのですが……現地へ向かうには馬で行くしかなくて……。馬に乗れる者が、思った以上に少ないのです」
重苦しい沈黙が、薬事室に落ちた。
その中で、ユリアは静かに手を挙げた。
「……私、馬に乗れます。行かせてください」
「え……?」
薬師は思わず目を見開き、次にクリックの顔を見た。
「ですが……ユリア様は女性ですし、その……足のことも……。土砂崩れの起きている場所では、何が起こるかわかりません。あまりにも危険すぎます」
「大丈夫です」
ユリアは一歩前に出て、はっきりとした声で言った。
市場近くの医局での生活が始まってから、ユリアはすっかり医局の一員として馴染んでいた。
足の不自由さに悩まされることはあっても、働く喜びと、人の役に立てている実感が、そこにはあった。
そんなある日のことだった。
薬事室の扉が慌ただしく開き、同じ薬事室で働く薬師の一人が、やや切迫した表情で入ってきた。
「……どなたか、馬に乗れる方はいませんか?」
室内にいた者たちが、一斉にその薬師の方を見た。
「何かあったのですか?」
作業の手を止めたクリックが、静かに問いかける。
「そ、それが……この数日の大雨で、北の方で大きな土砂崩れがありまして……。被害者がかなり出ているようなんです」
薬師は息を整えながら続けた。
「救援物資も、負傷者の手当をする人手も足りていません。医師たちにも声をかけているのですが……現地へ向かうには馬で行くしかなくて……。馬に乗れる者が、思った以上に少ないのです」
重苦しい沈黙が、薬事室に落ちた。
その中で、ユリアは静かに手を挙げた。
「……私、馬に乗れます。行かせてください」
「え……?」
薬師は思わず目を見開き、次にクリックの顔を見た。
「ですが……ユリア様は女性ですし、その……足のことも……。土砂崩れの起きている場所では、何が起こるかわかりません。あまりにも危険すぎます」
「大丈夫です」
ユリアは一歩前に出て、はっきりとした声で言った。