敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「大変だ!」
「どうした?」
「それが……陛下が、この土砂崩れに巻き込まれたかもしれないとの連絡が……!」
「……え……?」

 その瞬間、ユリアの中で、時間が止まった。
 騎士の声は確かに聞こえているのに、意味がすぐには結びつかない。
 胸の奥が、ゆっくりと冷えていく。
 
「ど、どういうことですか?」

 クリックが声を荒げて問いただす。

「今回土砂崩れに巻き込まれたのは陛下がいらっしゃる団です。土砂崩れで隊が分断され、誰が巻き込まれたのか把握できていなかったのですが……」

 騎士は一度言葉を切り、唇を噛みしめた。
 
「昨日から、陛下と連絡が取れていません。先ほど、陛下がお乗りになっていた馬だけが戻ってきたと……」
 
 ――違う。

 忘れたはずだった。
 時間が、忘れさせてくれると――
 そう信じて、ここまで来たはずだった。

 だが、その名を聞いた瞬間、
 胸の奥に空いたはずの穴が、痛みとなってはっきりと形を持った。

 ユリアは、ぎゅっと唇を結んだ。
 
「……現場はどこですか」

 震えそうになる声を、必死に抑えて問いかける。 
 
「ここから五キロほど先です。急斜面で地盤も緩んでおり、危険なため、夜明けを待って捜索を――」

 そこまで聞いた瞬間、ユリアは小さく息を吸い込んだ。

「クリック様。救護テントへは、クリック様お一人で向かっていただけますか?」

 ユリアは自分が背負っていた救援物資をクリックに渡しながら、そう口を開いた。
 
「ユリア様?」
「私は……陛下を探しに行きます」

 そう言い切ると、ユリアは馬腹を蹴った。
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