敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「まったく……ユリア様は……本当に無茶をなさる」

 そう吐き捨てるように呟いた後、セルビアはすぐに決断した。

「ユリア様のことは、私が追います。クリック様は、予定通り救援テントへ向かってください。負傷者の対応を優先してください」
「で、ですが……」
「大丈夫です。必ず連れ戻します」

 セルビアの揺るがぬ言葉に、クリックは深く頭を下げた。

「……ありがとうございます。どうか、ユリア様を……」
「任せてください」

 そう言うとセルビアはすぐさま馬に飛び乗り、ユリアが走り去った方向へと駆け出した。
 
 一方、ユリアは馬を走らせ続けていた。

 荒れた地面、崩れた土砂の跡。
 胸の鼓動が激しくなり、息が浅くなる。
 やがて、視界の先にぽっかりと口を開けた洞窟が見え、ユリアは思わず馬の脚を止めた。

「……ここは……」

 胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

 ――かつて……
 まだ青年だったエルフナルド様と、初めてお会いした……あの洞窟……。

 ユリアは、導かれるように洞窟へと足を向けた。
 馬を降りた瞬間、膝がわずかに震えた。
 それでも、立ち止まることはできなかった。

 ――お願い……どうか、どうか……。

 洞窟の中はひんやりとしていて、静かだった。
 自分の息遣いと、早鐘のような鼓動だけがやけに大きく響く。

 奥へ、奥へと進んだ、その先で――
 人影が見えた。

「……ユリア?」

 少し懐かしいような、だが聞き慣れた声が、確かに彼女の名を呼んだ。

「……陛下……? 本当に……いらっしゃるのですか……?」

 確かめるように、祈るように問いかける。
 エルフナルドの姿をはっきりと視界に捉えた途端、ユリアは堰を切ったように駆け出した。
 不自由な足など、もう意識にすらなかった。

「なぜお前が――」
「お怪我は……!? どこか痛むところはありませんか!?」

 声が震え、視界が滲む。
 
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