敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「そんなはずはない」

 即座に、エルフナルドが否定した。

「忠誠心だけで、人はそこまで自分を顧みずに動けるものか。暗く、危険な場所へ、一人で向かう理由が、それだけで足りると思うか」
 
 掴まれた腕に、わずかに力がこもる。

「なあ、ユリア。私を王として心配したのか?
 それとも――」

 声が低くなる。

「一人の男として、失うのが怖かったのか」

 その言葉に、ユリアの胸が強く締めつけられた。

 ――ダメ……。
 本心なんて、口にしてはいけない。

 唇を噛みしめ、首を横に振る。
 ただ、言えないだけだった。
 掴まれた腕が、熱い。
 それだけで、心が揺れた。

 ――私は、この方の隣に立てる人間じゃない。
 だから王宮を出た。
 それが正しい選択だったはずなのに……。

「ユリア」

 もう一度、名を呼ばれる。
 優しく、しかし逃げ道を与えない声音で。

 ――王宮を出たあの日。
 すべてを断ち切ると、決めたのだ。

 それなのに。

 目の前には、今も変わらず、私の手を取り、抱きしめてくれる人がいる。

 抑えていた感情が、静かに、しかし確実に溢れ出した。

「……貴方のおそばに、いたい……」

 零れた声は、あまりにも小さく、弱かった。

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