敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「ユリア様のことは、私が追います。クリック様は、予定通り救援テントへ向かってください。負傷者の対応を最優先で」
「ですが……」
「大丈夫です。必ず、連れ戻します」

 揺るぎない言葉に、クリックは深く頭を下げた。

「……ありがとうございます。どうか、ユリア様を……」
「お任せください」

 そう言い残し、セルビアはすぐさま馬に飛び乗り、ユリアが走り去った方向へと駆け出した。

 ――相変わらず、お早い……。もうお姿が見えない……。

 セルビアは必死でユリアの居場所を探し続けた。
 森の中を進むうち、ふと視界の端に岩肌が覗く。
 不自然に口を開けたその奥に、洞窟があった。
 その入り口の傍らに、一頭の馬が繋がれている。

 ――間違いない。ユリア様の馬だ。

 セルビアは胸の奥で息を整え、洞窟へと足を向けた。
 中へ進むにつれ、微かな声が届く。
 聞き覚えのある声だった。
 セルビアは思わず、その場で立ち止まった。

 ――ご無事か……。

 安堵が、遅れて胸に満ちてくる。
 それ以上は進まず、岩陰から二人の様子を見守った。

 ――ああ……ようやく。
 
 セルビアの胸に、じんわりと何かが込み上げる。

 このお方の人生は、あまりにも過酷だった。
 幼い頃から戦場に立ち続けた日々。
 アルジールに嫁いでからも、安らぎとは程遠かった。

 それでも――。

 今、確かにここに、この方が帰りたいと願う場所がある。

 ――きっと、今度こそは。
 エルフナルド様なら、ユリア様を守ってくださる。

 セルビアは、静かに息を吐いた。
 
 ――そして自分は。
 その場所を守る影であればいい。
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