敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 クリックはその後、市場の医局へ戻るため王宮を後にした。
 門を出るその背を、ユリアは呼び止める。

「クリック様……あの、私……」
「大丈夫ですよ、ユリア様」

 穏やかな声だった。

「ユリア様は、ご自身で選ばれた道を進めばよろしいのです。こちらのことは、どうか気になさらずに」
「……ありがとうございます」

 ユリアは、クリックの姿が見えなくなるまで、ただ頭を下げ続けていた。

 
 それからユリアは、アリシアとともに元の自室へ戻った。
 半年ぶりに足を踏み入れた部屋は、出て行った頃と何一つ変わっていない。

「……変わってないのね」
「ええ。ここは、いつでもユリア様のお部屋ですから」

 アリシアは静かに微笑んだ。

「では、私はこれで。夕食の時間になりましたらお呼びに参ります」
「ええ。ありがとう。私、少し庭園へ行ってくるわ。夕食までには戻るわ」
「かしこまりました」

 一人になると、胸の奥に溜まっていた息が、ようやくこぼれた。
 部屋を出ると、廊下にセルビアが控えていた。

「庭園に行くわ」
「かしこまりました」

 久しぶりに歩く王宮の庭園は、ユリアの記憶と変わらぬ姿で広がっていた。

「……綺麗に手入れされているわね」
「クリック様が主に手入れをされておりましたが、アリシア様もよく足を運ばれていましたよ」
「そう……」

 それきり、ユリアは言葉を発さず、庭園から書庫へと静かに歩いて過ごした。
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