敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

115 それぞれの場所へ

 目を覚ましたとき、ユリアはまだエルフナルドの腕の中にいた。

 ――ああ……夢ではないのね。

 そう思った瞬間、胸の奥が熱くなり、涙がこぼれそうになった。
 ユリアはそれをぐっと堪え、そっとエルフナルドの胸元に顔を埋めた。

 規則正しい呼吸と、確かな体温。
 昨夜の記憶が、静かに、しかしはっきりと蘇る。

「ユリア? ……起きたのか?」

 柔らかな声が頭上から降ってきた。

「あ……お、おはようございます」

 顔を上げると、目が合う。
 それだけで胸がくすぐったくなり、ユリアは少し照れたように微笑んだ。

「おはよう。……一緒に朝食を取ろう」
「はい」

 二人は身支度を整え、並んで寝室を後にした。
 特別なことは何もない、けれど確かに、これまでとは違う朝だと、ユリアは感じていた。

 
 それから数日後。
 エルフナルドの許可を得て、ユリアは久しぶりに医局を訪れていた。
 見慣れた建物、薬草の香り。胸の奥に、懐かしさと少しの緊張が入り混じる。

「クリック様、こんにちは。お伺いするのが遅くなってしまい、申し訳ありません。……今、お時間よろしいでしょうか」
「ええ、大丈夫ですよ。では、こちらへ」

 そう言って、クリックは奥のテーブルへとユリアを案内した。
 席に着いたものの、ユリアはすぐに言葉を切り出せなかった。
 この数日で、何度も考え、何度も自分の心に問いかけたこと。
 ユリアは一度、小さく息を整えてから口を開いた。

「私、王宮で……陛下のおそばで生きていくことに決めました」

 その声音には、迷いがなかった。
 静かな確かさだけが、そこにあった。
 クリックは、その表情を静かに見つめていた。
 救援テントで再会した時も、すでに気づいてはいた。
 ユリアの心が、どこにあるのか。
 それはもう、揺らぐものではなかった。
 けれど、今この瞬間――
 それは「想い」ではなく、「覚悟」として差し出されている。
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